横須賀美術館 YOKOSUKA MUSEUM OF ART
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講演会
手で見る美術-視覚障害者の美術鑑賞 ピカソの絵を手がかりに
講師:ホエール・コーヴェスト(パリ科学産業博物館 視覚障害者アクセス部門主任)

日   時:2006年7月23日(日)14:00-17:00
参加人数:約70人
場   所:横須賀市総合福祉会館5階 視聴覚研修室

コーヴェストさん <講師紹介>

フランスの科学産業博物館(通称「ラ・ヴィレット」)にて視覚障害者アクセス部門主任を務めるコーヴェストさんは、 ピカソの絵を触覚で鑑賞できるよう構成した視覚障害者向け画集『手でみるピカソ』の企画製作や、 空間を認知しながら視覚障害者が建築物を楽しめる書物『建築の鍵』の開発などに携わられています。
日本では「鎌倉 手でみる芸術祭」(1995年)でのシンポジウム「ふれて 造って 鑑賞して」にてシンポジストを務め、 今回は約11年ぶりの来日となりました。
当初は美術史の勉強をしていたコーヴェストさんでしたが、美術作品を見ることができない現実を前に、 それまで自らが学んできたことがまったく役に立たないことを痛感したそうです。
しかしその後、美術史の研究に加えて、 自身の経験を生かしながら視覚障害者の美術鑑賞についても研究を行い、現在は視覚障害者の認識の手だてとなる補助器具の開発に尽力、 研究者としても優れた業績を残しています。


講演会風景

<講演会の内容>

レオン・バッティスタ・アルベルティやフィリッポ・ブルネレスキらによって確立された遠近法や透視図法といった絵画技法の話から、 20世紀絵画の2大巨匠といわれるピカソとマティスの話など、講演会は美術の歴史をわかりやすく紐解いていくと同時に、 近代絵画がそれまでの絵画技法をどのように乗り越えていったかという話に及びました。
それはつまり、ピカソとマティスの絵が、それぞれ技法は異なるものの、とにかく対象の本質を掴もうとしたことに着目し、 両者の絵が、実は触覚を用いて対象のかたちをさぐる視覚障害者の見方ととても似ているのだというコーヴェストさんの 話の核心へと迫り、視覚障害者にも美術鑑賞が可能であることを徐々に我々に実感させてくれるものでした。
目を閉じ、触って物体を認知してもらう体験を通し、触覚がまずは面を探り、そこから辺を、そしてふたつの面がつくる角度、 物体の大きさ、方向性へと及ぶことを示唆しながら、コーヴェストさんは、「晴眼者は見えることにより触ることがたくさんの ことを教えてくれることを忘れてしまっている」と指摘しました。
一方で「視覚障害者は、美術を鑑賞するために二次元から三次元を頭のなかで構築するトレーニングをしなくてはならない」 という言葉を残しました。
晴眼者・視覚障害者の分け隔てなく、講演会を通し見えてきたのは、 美術史研究者であるとともに視覚障害者でもあるコーヴェストさんの、力強く生きる姿勢だったのではないでしょうか。


講演会風景

<アンケートから>

  • プロセスをふまえて、立体認知をするという経験が鑑賞に役立っているということが実感でき、 これからも触覚を通した作品を鑑賞していきたい。(20代・公務員)
  • 視覚障害者の方のものの見方を知ることは、目が見える人たちにとっても大きなヒントとなるものだと感じました。 目が見える人たちは、ひとつひとつの絵画を浅くしか見ていないことに気づかされました。(30代・教員)
  • すべての人が美術を楽しめるような期待が持てた。触覚・視覚など五感を使って色々な経験をどんな人でもできるような気がした。(30代・公務員)
  • ひとつの視点から描いた絵ではなく、多面的にモノをとらえたピカソやマティスの絵を「手がかり」に選んだ理由は、 空間認知という触覚もふくめた「運動」がきっと大切な要素だからだと思いました。重要なことは、 触画のクオリティを高めることよりも、いかに目が見えない人たちに「絵を見て味わう」という認知のプロセスを体験してもらい、 世界をより楽しむ道を案内してあげることではないかと思いました。楽しかったです。(20代・会社員)